企画要旨
『景観開花。』は、土木デザインに関心のある若者へその力を試せる場を提供するとともに、多くの人々へ向けて土木デザインの可能性を示すための設計競技イベントである。
高度経済成長期の日本では早急な社会基盤整備が求められ、特定の機能を果たすためだけの画一的な土木施設が多く生み出された。しかし一定の社会基盤が整うにつれ、その場所が持つ意味や役割に合い、風景に調和した土木デザインを求める機運が高まりつつある。そういった土木デザインが美しい景観を実現するものと信じ、『景観開花。』は誕生した。
2018年迄の15年に渡る景観開花の歴史を振り返ると、第1回から第10回に至るまでの10回は未来へつなぐ新時代の土木デザインの提案を求めてきた。また第11回から第15回までの5回は「まち」に潜む問題の顕在化に対し、人々の生活の接点としての「まち」とそれを支える土木構造物へのあり方についての提案を求めてきた。
昨年度は「土木デザインに関心のある若者へその力を試せる場」、「多くの人々へ向けて土木デザインの可能性を示す」という本イベントの原点に立ち返り、激変する社会情勢に合わせた今後の新たな土木デザインのあり方の提案を新たな形を含めた様式で行う土木設計コンペとしてリニューアルした。
本年度の『景観開花。』もこれを継承する。東日本大震災から10年、これからの防災のあり方が模索される中、「Pre-Coastruction」と題して、海岸空間のあり方を問う。応募者には沿岸地域に固有の海との関わり合いを十分考慮し、海岸構造物によって地域の安全と魅力の維持・向上を両立することで地域の持続可能性を高める土木デザインの提案を求める。災害の激甚化、人口が減少する日本におけるこれからの防災へとつながるような提案が生まれることを期待している。
設計テーマ
「Pre-Coastruction」
詳しくはEntryをご覧ください。
審査方法
本年度は、一次審査会・最終審査会ともにオンラインでの開催とする。
一次審査会では、パネルデータ・模型写真データ・動画データ・作品概要を用い、入賞作品を5点前後決定する。また後日、最終審査会を公開で開催(live配信を予定)し、入賞者は作品のプレゼンテーションと質疑応答を行う。審査委員はこれらにより最優秀賞と優秀賞を決定し、それ以外の入賞作品を佳作とする。
審査日程
エントリー開始 |2021年 7月22日(木・祝)(海の日)
エントリー締切 |2021年10月 3日(日)
提出物締切 |2021年10月10日(日)
一次審査会 |2021年10月29日(金)
最終審査会 |2021年11月13日(土)
賞金等
賞金 | 最優秀賞20万円 ✕ 1点
優秀賞10万円 ✕ 1点
佳作 4万円 ✕ 数点
特別賞 2万円 ✕ 数点
参加賞| 一次審査会における審査委員からの自作品の講評
審査委員紹介
篠原 修
Osamu SHINOHARA
土木設計家
東京大学名誉教授
景観開花。2021 審査委員長
阿部 俊彦
Toshihiko ABE
立命館大学 理工学部 建築都市デザイン学科 准教授
内藤 廣
Hiroshi NAITO
建築家/東京大学名誉教授
八馬 智
Satoshi HACHIMA
土木デザイン研究者/都市鑑賞者
千葉工業大学工学部デザイン科学科 教授
臂 徹
Toru HIJI
株式会社キャッセン大船渡 取締役
総務省 地域力創造アドバイザー
認定NPO法人日本都市計画家協会 理事
(敬称略・五十音順)
審査委員メッセージ
篠原 修 先生(審査委員長)
インフラの基本は、”fail safe”
土木の学生なら鉄道工学で習ったと思う。脱線しても車両が転覆して大事故にならない様に、カーブやカントがきついところにはレールの直ぐ脇に副えのレールが敷かれている。
見た事がありますか?こういうふうに失敗があっても、致命的な事態にならない工夫を、鉄道では fail safeと称して来た。
この考え方は事故や災害に備えなければならない、土木では大前提とすべきですが、河川では洪水、海岸では高潮、津波に対し欠落しているようです。fail safe 提案を。
阿部 俊彦 先生
気仙沼の内湾地区は、多くの住民が防潮堤に反対した地域です。114回の協議を積み重ねた末、土木と建築の相互調整が図られ、地域住民が「海と生きるまち」として誇りに思える海岸空間に復興しました。「景観十年、風景百年、風土千年」と言われるように、自然と対峙する防潮堤も、いずれ、人々の暮らしになじみ、自然に溶け込み、文化として歴史に刻まれることになるでしょう。
数百年から千年先を見据えつつ、いま地域に根ざして日々を暮らす住民のみなさんが納得できる提案を期待しています。
内藤 廣 先生
テーマ設定の文章にもある通り、東日本大震災からの復興はこの社会や制度の本質的な矛盾をいくつも孕んだまま概成しつつあります。なぜそうなってしまったのか。その遠因には、村や市といった基礎自治体が、こういう街を作りたい、こういう暮らしをしたい、という強いビジョンを持ちきれなかったからです。あの状況下ではそれも仕方ありません。しかし、だからこそ常日頃から自分たちの未来を思い描いておくことが大切です。新たな時代の可能性をみなさんの提案の中に見つけたいと思っています。
八馬 智 先生
海岸整備には地球規模の自然現象である高潮・津波・侵食などから国土を防護する機能が求められます。エンジニアリングに偏ったアプローチはそれらの課題解決に向き合う一方で、人々の日常生活や生物環境の多様性などが複雑に絡み合って生じる問題の発見や提起がおろそかになりやすいです。今回のコンペでは、環境の特性や人々の行動をじっくり読み込んだ上で設定した課題の的確さや、その解決に込められた面白さを、主に来訪者の視点から汲み取りたいと思っています。
臂 徹 先生
背後の陸地に人とその生活が存在する限り、海岸線には津波や高潮などを防ぐ、あるいは去なすだけではなく、人々に「防護性を過信させず、適切な行動を取らせる」ことも求められます。
それを担うのは構造物か?それとも空間に刻まれた過去の傷痕か?あるいはシステムか?
時を経て、地域が災害の怖さを忘れようとも、有事の際に強烈なメッセージを放つ「何か」をどのように演出するのか。滅私的ともいえる土木デザインの中で、皆さんが導き出す個別解を楽しみにしています。